この公演を立ち上げるためにCTTで披露された西山さんの「プレゼンテーション」を 見て、正直に言うとわたしは半信半疑だった。いや、微妙に「疑」の方が上だった。こ れで人が集まるのかと。原作の小説をわたしは知らなくて、だから断片的に紹介される話の中身もいまいちよく分からないし、かと思えば彼女は宇多田ヒカルを歌いだす。強烈な印象がしばらく残ったことは確かだ。しかしこれで人
が集まるのかと。
しかし人は集まったのだ。
プレゼンのあった後日、木屋町でたまたま会ったときに「これから面接なんです」と彼女は言った。その時は新しいバイトでも始めるのかと思い、マクドに行くのだと彼女は言うから、西山さんがマクドかと。マクドの店員にしてはデカすぎやしないかと。けれどまあバイトはしないとな、生活がな、などと考えていたらそうじゃなかった。この公演のことで俳優と会うのだと言う。彼女は着々と準備を進めていたのである。わたしの「疑」が微妙に上だった分、わたしの目は節穴だったということだ。ああ、わたしは今となってはもうそのことを恥じるばかりだ。
人が集まっただけではない。公演は実現し、もうしばらくすれば目の当たりにできるのである。
あのプレゼンで西山さんは宇多田ヒカルを熱唱していたのだけれど、わたしは彼女が歌うのにマイクを使うか使わないかに悩んでいたことを知っている。マイクを使ったのが正解だったのは、この企画でこれだけの人が集まったという結果が
示している。宇多田を歌い客席に向かって呼びかけ、その熱意というか、魅力というか、そうしたいわくいいがたいものが伝わったのだろう。
『西山真来はなぜこうなってしまったのか』とわたしたちには問いが投げかけられた。そうだ、どうしてわたしはあのとき「微妙に「疑」が上だった」ような見方しかできなかったのか。そしてあれから彼女が、彼女の思い描いていることがさらなる変容を遂げているならば、いやきっとそうなのだろう、だから「なぜこうなってしまったのか」とわたしたちに問いかけるのだ、そうであればもはや二月の寒さにたじろいで外出をためらうことなどあるものか。
田辺剛(劇作家・演出家/下鴨車窓)
http://blog.tana2yo.under.jp
[参考]CTTとは
http://cttkyoto.jugem.jp/
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