西山真来さん、新作公演に寄せて
西山さんはずるいと思う。まだ知りあって一年も経っていないので、本当のところ彼女がどういう人なのか、未だによくわからないが、これだけは言える。彼女はずるい。
この文章を書いてくれという電話があったときも、何となく、すんなりと受け入れてしまった。電話を切ってから受け入れたことに気付いたぐらいだ。
なんというか、物腰の柔らかいふりをして実は、強力な「絶対力」みたいなものを彼女は持っていると思う。
今回の、この企画のプレゼンと題して行われたC.T.T.でも「まだ段取りが頭に入ってないんです」とか言いながら、楽屋で宇多田ヒカルの歌の歌詞を必死で暗記していたかと思えば、本番では熱唱。よくわからないパンチやキックを繰り出して、結局、歌詞も適当。
それでも舞台上で、彼女はとても魅力的だった。彼女が彼女である限り、揺るがない何かが、体から滲み出ているように見えた。
彼女の魅力は、彼女自身の欲望や意思とは、少し距離を置いたところから滲んでくるように思う。筋肉の束が集結して発揮される力とは程遠い、けれどもそれらに匹敵するほどの強さと、しなやかさを持った何か。
彼女が舞台に立つとき、そんな「柔らかな絶対力」が彼女に「やってくる」。
そんな力を「繰り出す」のではなく「やってくる」というところに彼女の魅力があるような気がする。
でも西山さん本人はその力が何なのか、しかと掴んでいるわけでは、なさそうだ。そんな力がやってきたとき、本人も本気で驚いたり、当惑したり、時には迷惑がったりしているように見える。
そう、そんな風に見える。
いや、もしかしたら、そんな風に見せて実は計算かもしれない。もしそうだったらきっと、僕は心地よく悔しがるだろう。「西山真来はやっぱりずるい!」と。
西山さん、また今回もまた、あなたの不意に繰り出すパンチや、跳び蹴り、醸し出す空気が、観客の心をつかんで離さないその瞬間を、僕は心待ちにしています。
京極朋彦(ダンサー/俳優)
1984年生まれ。07年京都造形芸術大学、映像・舞台芸術学科、舞台芸術コース卒業。
シャープな身体性とバネのようなリズム感、ひとの2.5倍の汗を武器に、京都を中心に劇場、ライブハウス、クラブイベント等で、役者・ダンサーとして活動中。
2006年卒業制作として上演されたソロダンス『鈍突』が学科最優秀賞、および学長賞を受賞。
今後の活動として、神楽坂die pratzeにて2010年1月22日開催、神楽坂die pratzeにて、ダンスが見たい新人シリーズ8 I Group 『重題』(演出・振付・出演:坂本典弘)に出演など。
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